女性初のテーラーとして2023年に世界最高峰のファッションショー、パリ・コレクションへ出展された株式会社muse代表取締役の勝友美様。彼女の手がける「Re.muse」のスーツは、着る人に自信を与える"ヴィクトリースーツ"として知られ、幅広い世代から愛されています。
これまでオーダーメイドスーツを作り続けてきた勝様が、13年目を迎える今夏より既製服の販売をスタートしました。その理由とは? その背景とモノづくりへのこだわりを伺いました。
ずっとお客様から要望があったインナー
ーー:まずは12周年おめでとうございます。今、このタイミングで既製服をスタートされたのはなぜでしょうか?
勝様(以下敬称略):スーツを仕立てているときから、お客様に「インナーはどうすればいいですか?」と本当にたくさん聞かれてきました。ただ、私は“ある目標”を達成してからにしようと決めていたんです。それが叶ったことで、ようやく取り組めるタイミングになりました。
ーー:その“ある目標”というのは?
勝:私がこの仕事を始めた頃、女性テーラーはほとんどいなくて、女性がオーダースーツを作る文化もありませんでした。だからこそ、自分に誓ったんです。“お客様の半数が女性になるまでは、次のステージに進まない”と。今回それを達成できたことが、既製服という新しい挑戦につながっています。
メーカーさんとの運命の出会い
ーー:アパレルメーカーさんとの出会いもあったとか。
勝:この業界に入ったときから“このハンガーを使いたい”と思っていたイタリアのメーカーがあり、ご縁があって日本の代理店の方とつながることができたんです。Re.museのブランドカラーであるボルドーにロゴを入れてオリジナルを作れる、そこからすべてが始まりました。
しかも担当の方は、私が10代の頃から憧れていたブランドの方。OEMは基本的にしない会社だったので無理だろうと思っていたのですが、想いを伝えると『じゃあ作ってあげるよ』と快諾いただいて。一気に実現へ進みました。
もちろん簡単な道ではなくて、私が“こうしたい”とお願いしても「それはやめておいた方がいい」と止められることもありました。でも、そのやりとりがむしろすごく安心につながりました。互いに強いこだわりを持ちながら、真剣にものづくりに向き合える関係ってなかなかないですよね。だからこそ、今回絶大な信頼を寄せられる会社さんと一緒に形にできたことを、とても嬉しく思っています。
ーー:普通の洋服とスーツのインナーとの違いは?
勝:アームの部分がもたつくと本当に仕事に支障が出るんです。袖がドルマンになっていたりすると、動きづらくて気になってしまう。実はアームホールって着心地に直結していて、ジャケットの場合はたった2mmの違いでも体感が変わるんです。
ただブラウスを作るだけなら簡単ですが、ジャケットを羽織ったときの収まりや、ウエストインしたときとアウトで着たいときの丈感など、細部まで考えなくてはいけない。私たちはスーツを1mm単位で仕立てますが、既製服は1〜2cm単位で調整するのが基本。そこをどう折り合いをつけるか、メーカーさんとの合致点を探すのにとても苦労しました。
ーー:このブラウスなんかは袖がふわっとしていますね。かわいい!
勝:触っていただくとすぐにわかるんですけど、このオーガンジーは驚くほど柔らかくてなめらかなんです。だからジャケットを羽織っても腕がすっと通って、全然もたつかない。でも同時に、肩のふわっとしたシルエットはきちんと残したい。常に女性の体を綺麗に見せることを意識しているので、その両立が本当に難しかったんです。
しかもこのお花は1つ1つ手付けなんですよ。
カラーのスペシャリストが考える白と黒
勝:皆さん“白や黒なら間違いない”と思っていらっしゃるんですが、実はそこが一番失敗しやすいところなんですよ。
ーー:白や黒は万能ではない?
勝:私たち日本人が普段「白」と思っているのは、真っ白ではなくて少し黄みがかったり、アイボリーっぽいものが多いんです。だから、真っ白を合わせると逆に浮いてしまうことがあるんです。黒も同じで、素材や色味によって印象が大きく変わります。
ーー:なるほど、私たちが“白”“黒”とひとくくりにしているのは思い込みだったんですね。
勝:はい。そして色だけでなく、素材感も大きなポイントです。たとえば、フォーマルな深いグリーンのスーツに真っ白のインナーを合わせると「なんか違うな」と感じてしまうことがある。でも、そこに少し光沢感を持たせた素材を使えば自然に馴染みます。逆にナイロンのようにテカテカした質感だと、浮いてしまうんです。
なので、このキャミソールはシルバーよりのカラーなんです。
ーー:色と素材、両方のバランスで全体の印象が決まるんですね。
勝: そうなんです。私はテーラーとして日々スーツを仕立てながら、夜は学校に通い、色彩学やパーソナルカラーを学んで資格も取得しました。仕事が終わってから机に向かうのは大変でしたけど、「お客様に似合う一着を届けたい」という思いがあったから続けられました。
服の色は必ず顔に反射します。現場で感じてきたことを、理論として裏付けたかったんです。
ーー:「なんか違う」を説明できるようになったわけですね。
勝:そうなんです。スーツそのものは素敵なのに、インナーの色や素材感で損をしている方が多いんです。私にはそれがすごくもったいなくて。だからこそ「この1枚なら大丈夫」と思っていただけるインナーをつくろうと思いました。
ーー:それで生まれたのが、キャミソールやブラウスのラインナップ。
勝:はい。たとえばレースブラウスはシャツ型にして、スーツにもデニムにも合わせられるようにしました。カーディガンも、首元が詰まったデザインが苦手な方でも着やすいように、抜け感を工夫しています。ひとつひとつに「実際のお客様の声」を反映しているんです。
ーー:ただのおしゃれアイテムではなく、「実際に困っている人の解決策」なんですね
勝:私はスーツを通して「人の可能性を広げたい」と思っているんです。そのために必要なのはデザイン性だけでなく、「その人が自信を持てる1枚」。スーツ1着でも、インナーを変えるだけで印象は全く変わります。それを知ったら、もっと自分を楽しめると思うんです。
ーー:読者の方にとっても「白や黒は万能」という思い込みを外すきっかけになりそうです。最後に、インナー選びで悩んでいる方へメッセージをお願いします。
勝: 「とりあえず白や黒でいいや」ではなく、「どんな白か」「どんな黒か」「どんな素材か」を意識してみてください。そうするだけで、スーツも自分自身ももっと輝きます。インナーは単なる脇役ではなく、自分を引き立てる大事な存在。ぜひ、自分にとって本当に本当に合う1枚を見つけてほしいです。
撮影/Re.muse 銀座店 (photo by 幡野美紀 from Cinderella Fit)
〒104-0061 東京都中央区銀座3丁目2−11 GINZA SALONE 11F
オンラインショップ
https://re-muse-online.myshopify.com/
勝友美様のご経歴
勝友美(かつ・ともみ)
株式会社muse代表取締役
兵庫県宝塚市出身。アパレルメーカーにて販売員を務め、入社初日にトップセールスとな
る。その後、スタイリストとして海外ポータルサイトの新規事業立ち上げに参画したの
ち、オーダースーツ業界へ転身。最高峰の技術を習得し、2013年に『Re.muse』を創業。
2018年より、テーラー業界では日本初となるミラノ・コレクションへの3度の出展を果た
す。2023年に世界最高峰のファッションショー、パリ・コレクションへ出展し、ミラノに
続き、業界初の快挙を遂げる。Re.muse のスーツは着る人を自信で包む"ヴィクトリースー
ツ”と呼ばれ幅広い世代からの人気を博している。また、市場がない中でレディーススーツ
のマーケットを独自で切り開き牽引する存在であり、女性活躍の発展にも貢献している。
2024年には『Re.museBEAUTY』を立ち上げ、化粧品業界への参入を果たす。女性起業家として業界の枠を越え多くのメディアに出演すると共に、自身の経験を基にYouTubeなどを
通じ精力的に配信を行っている。SNS総フォロワー88万人(2024年10月時点)
■著書 (最新順)
・貫く力(出版社:KADOKAWA)
・人は自分に嘘をつく(出版社:KADOKAWA)
・営業は「バカ正直」になればすべてうまくいく(出版社:SBクリエイティブ)