エレベーターのドアが38階で開いた瞬間、東京にいることを忘れます。
目に飛び込んでくるのは、大小300以上の植物たちが織りなす、都心には似つかわしくない緑の世界。苔むした石、手仕事の漆喰、砂利のラインが渓流を想わせる壁——その一つひとつに、米国発のサステナブルラグジュアリーブランド「1 Hotels」が東京に問いかける、新しい美の哲学が宿っています。
2026年3月、東京・赤坂トラストタワーの38〜43階に日本初の拠点として開業した「1 Hotel Tokyo」。「世界はたったひとつしかない(1 World)」という思想のもと、バリー・スタンリヒトが創設したこのブランドが、東京という舞台で体現しようとしているのは何か——その答えを探りに、赤坂の高層へと向かいました。
「侘び寂び」を押しつけない。
バイオフィリックデザインが生んだ、東京らしい自然

「無理に侘び寂びを表現しようとしたつもりはない。そこがこのホテルの独自性になっている」と、担当者は語ります。
1 Hotelsグループが全拠点で採用する「バイオフィリックデザイン」——自然を取り入れ、自然に触れたいという人間の根源的な欲求に応えるという設計思想——は、東京の地においても、あくまで「外からの輸入」ではなく土地との対話として具現化されました。創業者バリー・スタンリヒトがもともと日本を愛していたことから、皇居をモチーフにした大谷石の意匠が随所に採用されています。
1階エントランスの屋外グリーンウォールを抜け、38階のロビーへ向かうエレベーター。その過程は、ひとつの巨大な木に登るようなジャーニーとして設計されています。到着した先には300以上の鉢植えが迎え、客室には工事の際に使用した足場の素材にプリザーブモスを組み込んだアート作品が壁を飾る。都市から自然への「トランジション」として、空間全体が一つの物語を紡いでいます。
我慢しない、気づかせる。1 Hotel Tokyoが届ける「体験としてのサステナビリティ」

「サステナビリティというと節水・節約のイメージも強く、我慢しなければならないものという印象を持つ人も多い」——そう前置きしたうえで担当者は言います。「だから私たちは、日常の延長線として、お客様がサステナビリティを意識するきっかけをそっと設計している」。
全客室に設置された浄水タップと、ワインボトルを再利用したウォーターグラス。ペットボトルを一本も使わずに済む仕組みが、当たり前のように室内に組み込まれています。バスルームには5分を測る砂時計。ハンガーは再生紙製。何かを諦めたわけでも、特別なことを強いられたわけでもない——ただ気がつくと、地球にやさしい時間を過ごしていた、という体験の設計です。
廃棄物の90%再利用を目標に掲げ、日本の建築環境性能評価制度「CASBEE」の最高位Sランクを取得したこのホテルは、ラグジュアリーの定義を「消費」から「共生」へと静かに塗り替えています。
東京の若手農家と、食卓を育てる。NiNiが描くローカルガストロノミー

シグネチャーレストラン「NiNi(ニニ)」のダイニングが大切にしているのも、同じ哲学です。
NiNiは「Two Two」という思想に導かれた、東京のコンテンポラリーダイニング。南仏リヴィエラ(フレンチ・リヴィエラ)の軽やかな味わいに、日本の確かな技と感性を重ね、季節と食材がその日の一皿を自然に形づくります。オリーブオイルや柑橘、プロヴァンスハーブ、シーフードといった地中海らしい要素が、日本の職人技と抑制の美学によって静かに昇華される——その料理のひとつひとつに、サステナブルな食の哲学が息づいています。
食材の調達においては、耕作放棄地を活用し農業に励む若手農家の団体「東京NEO-FARMERS!」と提携し、東京産の食材を継続的に仕入れています。安定供給が難しい産直の食材だからこそ、「この料理の食材は必ず東京NEO-FARMERS!から」というこだわりを崩さない。地産地消を体現する一皿が、東京の農の現在地と向き合う、新しいかたちの美食体験となっています。
50種類以上のジャパニーズ・クラフトジンを擁するロビーラウンジ&バー「Spotted Stone(スポッテッド ストーン)」では、好みのボタニカルとベルモットを選んで仕上げるシグネチャー・マティーニ・リチュアルが楽しめます。一杯のカクテルでさえも、ゲスト自身が選択し、関わることで体験となる——その哲学が、空間のすみずみまで染み渡っています。
「変革のためのプラットフォームでありたい」——1 Hotel Tokyoが掲げる言葉は、ホテルの役割についての、静かだけれど力強い宣言です。
ロビーに漂う植物の香り、浄水タップから注ぐ清澄な水、東京の農家が届けた今日の食材——それらはすべて、華美さや過剰さとは無縁の、本物の豊かさです。そして「足るを知る」「素材への感謝」という日本古来の価値観と、1 Hotelsのサステナビリティ哲学が交わる場所に、このホテルは静かに、しかし確かに、存在しています。
ラグジュアリーとは、消費することではなく、共生することだと気づくとき——東京の高層に生きる森が、あなたにそっと語りかけてくれるはずです。
■施設情報
施設名: 1 Hotel Tokyo
所在地: 東京都港区赤坂2-17-22 赤坂トラストタワー38〜43F
公式サイト: https://www.1hotels.com/ja/tokyo
客室数: 全211室(スイート24室含む)
レストラン: NiNi / Spotted Stone / Neighbors Café
TEL: 03-6441-3040
