夕焼けから夜空へ──職人の目が一棹ごとに整える、三色錦玉羹のグラデーション

「茜」の断面には、宍道湖の夕景が映し出されています。ほうじ茶羊羹の土台の上に、夕焼けの雲を表す黄と赤の錦玉羹を重ね、さらに日没後の空を表す青の錦玉羹を重ねた三層構造。その色の重なりが、光と影が溶け合うマジックアワーを再現しています。
しかしこの色合いは、機械的な分量だけでは生まれません。「赤系と青が混ざると暗く見えやすい」という色の性質があるため、青の分量を職人が一棹ごとに目で見ながら微調整しているとのこと。「山陰は湿度が高く、日によって気候や環境も変わります。そうした条件によっても仕上がりに違いが生じるため、基準となる分量を守るだけでは、思い描く色合いを再現できないことがあります」と話してくれたように、同じ配合で仕込んでも、その日の環境によって表情は変わります。
「宍道湖の夕景を思い浮かべながら、職人が目で確かめ、経験をもとに細かな加減を重ねていく」
その一つひとつの判断が、「茜」ならではの繊細な色彩につながっています。
この羊羹のコンセプトの原点は、製造部部長・田中紀幸氏が「毎日通勤途中に見る宍道湖の夕景を形にしたかった」という思いにあります。日本の夕陽百選にも選ばれ、小泉八雲も愛したという宍道湖の夕景を、「食べた人の心にも温かさが残るような菓子を目指した」という言葉に、風景と和菓子を結ぼうとする職人の眼差しが宿っています。
一番茶ほうじ茶パウダーを二倍に。香りと水が生む、ほうじ茶羊羹の素材設計

「茜」のほうじ茶羊羹には、厳選された一番茶のみを使ったほうじ茶パウダーをこし餡に練り込んでいます。実はこのパウダー量、当初から大きく変化しています。「女性社員から『もっとほうじ茶の風味を感じられるように』という意見があり、ほうじ茶パウダー量を当初の約2倍に増やしました」と話してくれたように、お客様と日々接する販売担当者の声が、味の設計に直接反映されています。職人の技術だけでなく、現場に近い立場だからこそ気づく感覚を取り込む姿勢が、「茜」の香ばしさとまろやかな甘みを支えています。
仕込み水にも、こだわりがあります。使用するのは、島根・三瓶山の地下70メートルから汲み上げた天然水「さひめの泉」。「素材の持ち味を生かし、すっきりとした甘さに仕上がります」とのとおり、ほうじ茶の香りを引き立てながら、後味を清らかに整える水として、彩雲堂の羊羹づくり全般に使用されています。
150年の哲学と棟方志功の意匠──「茜」が体現する彩雲堂のものづくり

彩雲堂は1874年の創業以来、和菓子職人の技術を大切にしたお菓子づくりを続けてきました。「職人のキャリア育成として各種国家資格に挑戦してもらう環境やチームを大切にしてきた。その結果が現在の評価につながっている」という言葉が示すように、今日の「選・和菓子職」7名・「現代の名工」1名という陣容は、積み重ねてきた育成の歴史の賜物です。
職人の技術が最も集約される「上生菓子」は、日持ちがしないため流通には向きません。しかし羊羹であれば、季節感と職人の技を、より多くの人のもとに届けることができる。「彩雲堂の職人が大切にしてきた季節感や技術を季節の羊羹に込めてお届けしている」という言葉に、秋限定という形に込めた意味が凝縮されています。
包装紙の絵柄と屋号文字は、日本の民藝活動を牽引した版画家・棟方志功によるもの。「茜」のパッケージも宍道湖の夕日を想起させるデザインに仕上げられており、「ブランドイメージとして民藝風という一本の筋を通す」という彩雲堂のスタンスが、この一棹にも貫かれています。
「松江の夕日を楽しんだ方が、旅行が終わり家族にお土産話をするときに、夕日の情景を一緒にお菓子と楽しんでもらえれば」——その言葉が、「茜」という一棹が目指す場所を教えてくれます。見た目の美しさ、ほうじ茶の香り、そして食べた後にも残る穏やかな温かさ。秋のひとときに、ぜひ手に取ってみてください。
彩雲堂の各直営店舗・オンラインショップ(netshop.saiundo.co.jp)にて、2026年11月中旬まで販売中です。